競馬史において、「GⅡレースでありながら13万人もの大観衆が競馬場を埋め尽くした」という、前代未聞の伝説の一戦があります。
それが1998年の毎日王冠(GⅡ)。主役は、JRA史上最強の逃げ馬と称されるサイレンススズカです。無敗のままJRAの頂点へ駆け上がろうとする2頭の若き天才怪物、エルコンドルパサーとグラスワンダー。その前に、影をも踏ませぬ異次元のスピードで立ちはだかった快速王の、最初で最後の歴史的死闘に迫ります。
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この記事でわかること
✅ サイレンススズカが見せた「異次元の逃げ」の衝撃
✅ エルコンドルパサー、グラスワンダーとの伝説の3強対決
✅ 1998年毎日王冠(GⅡ)のデータと展開
①このレースはなぜ「名勝負」なのか
1998年の毎日王冠が競馬史に残る名勝負と言われる理由は、「JRAの歴史上で最もハイレベルな『世代を超えた最強馬対決』が、圧倒的なスピードレースとして現実のものになったから」です。
当時は、無敗のまま国内最高峰のジャパンカップを見据えていた4歳(現3歳)の外国産馬2頭が、競馬界の未来を背負う怪物として恐れられていました。その若き超大物たちを、絶頂期を迎えていた5歳(現4歳)のサイレンススズカが、自慢のハイペースな逃げで真っ向からねじ伏せた展開は、今なお「史上最高のGⅡ」として語り継がれています。
②レースまでの背景
このレースの最大の焦点は、無敗の若き怪物たちと、覚醒した快速王サイレンススズカのどちらのスピードが上回るのか、という点にありました。
- サイレンススズカ:武豊騎手と出会い、前半から超ハイペースで大逃げしながら後半もさらに加速するという「異次元の逃げ」を確立。GⅠ金鯱賞での歴史的大差勝ち、宝塚記念(GⅠ)制覇を経て5連勝中、完全に本格化していました。
- エルコンドルパサー:デビューから5戦無敗、前走のNHKマイルカップ(GⅠ)を圧倒的な強さで制した、底知れない能力を持つ最強の4歳馬。
- グラスワンダー:こちらもデビューから4戦無敗、前年の朝日杯3歳ステークス(GⅠ)をレコードで圧勝した「怪物のなかの怪物」、骨折の影響で長期休養明け。
本来であればGⅠの大舞台でしか実現しないはずの、お互いのプライドを懸けた「無敗vs無敗vs快速王」の対決が、秋の東京競馬場の毎日王冠(GⅡ)で実現することになったのです。
③1998年 毎日王冠 出馬表
この年の毎日王冠は、3強の存在があまりにも巨大だったため、わずか9頭という少頭数でのレースとなりました。しかし、その顔ぶれは非常に贅沢なメンバーでした。当時の実際の出馬表がこちらです。
| 枠 | 馬番 | 馬名 | 性齢※ | 斤量 | 騎手 | 単勝オッズ | 人気 | 現役時代の主な実績など |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | プレストシンボリ | セ7 | 57kg | 岡部幸雄 | 64.4 | 8番人気 | ラジオたんぱ賞の覇者。 重賞戦線で活躍した実力馬 |
| 2 | 2 | サイレンススズカ | 牡5 | 59kg | 武豊 | 1.4 | 1番人気 | 【3強】宝塚記念を含む重賞5連勝中。 異次元の逃げで圧倒的支持 |
| 3 | 3 | テイエムオオアラシ | 牡6 | 57kg | 福永祐一 | 55.9 | 7番人気 | カブトヤマ記念・福島記念などを制した重賞3勝馬 |
| 4 | 4 | エルコンドルパサー | 牡4 | 57kg | 蛯名正義 | 5.3 | 3番人気 | 【3強】5戦無敗のNHKマイルC覇者。 後にジャパンCを制覇 |
| 5 | 5 | ランニングゲイル | 牡5 | 58kg | 柴田善臣 | 36.7 | 5番人気 | 弥生賞の勝ち馬。 クラシック戦線でも活躍 |
| 6 | 6 | グラスワンダー | 牡4 | 55kg | 的場均 | 3.7 | 2番人気 | 【3強】4戦無敗で朝日杯3歳Sを制覇。 骨折休養からの復帰戦 |
| 7 | 7 | サンライズフラッグ | 牡5 | 58kg | 安田康彦 | 32.9 | 4番人気 | 鳴尾記念を制した実力馬 |
| 8 | 8 | ワイルドバッハ | 牡6 | 57kg | ロバーツ | 344.1 | 9番人気 | ダートを中心に活躍 |
| 8 | 9 | ビッグサンデー | 牡5 | 58kg | 宝来城多郎 | 46.3 | 6番人気 | マイラーズCなど重賞3勝を挙げた快速マイラー |
※性齢は現在の数え方に合わせた表記です。当時の日本競馬では旧表記(数え年)のため、当時の出馬表では1歳上に表示されます。
④ レース展開
記事を読み進める前に、JRA公式YouTubeチャンネルの「1998年 毎日王冠」のレース映像を合わせてご覧いただくのがおすすめです。異次元の逃げと最後の直線の攻防をあらかじめ確認しておくと、この後の解説がより分かりやすくなります。
🎥 1998年 毎日王冠 レース映像(JRA公式)
スタートのゲートが開くと、1番人気のサイレンススズカが抜群のダッシュ力でハナ(先頭)を奪いました。
エルコンドルパサーが好位、長期休養明けのグラスワンダーは中団のやや後ろに控えるなか、サイレンススズカが刻んだ前半1000mの通過タイムは「57秒7」というハイペース。息の入れ場のない驚異的なスピードに、場内はどよめきます。
勝負が動いたのは第3コーナー過ぎでした。「納得のいく負け方を」という陣営の指示通り、グラスワンダーがサイレンススズカを自ら捕まえに猛然と進出。最終コーナーでは一瞬、サイレンススズカに並びかける意地を見せます。
しかし運命の最後の直線、早仕掛けが響いたグラスワンダーは力尽きて失速。代わって外から鋭く脚を伸ばし、サイレンススズカへ猛烈に襲いかかったのがエルコンドルパサーでした。
迫り来るエルコンドルパサーに対し、サイレンススズカは59kgの酷量を背負いながらも、武豊騎手のムチに応えてもう一段加速。若き怪物の追撃を2馬身半差で堂々と完封し、歴史的な栄冠を手にしました。
⑤勝負を分けたポイント
勝負を分けたのは、サイレンススズカが59kgの酷量を背負いながら、前半1000mを「57秒7」で逃げ切り、後半の残り3ハロンも「35秒1」でまとめ上げた絶対的なスピード能力です。
グラスワンダーを管理する尾形充弘調教師の「同じ負けるにしても納得のいく負け方で」という指示通り、無謀を承知で3コーナーから自ら捕まえに動いた的場均騎手の執念は場内を沸かせましたが、長期休養明けの体にはあまりにも過酷なラップでした。結果としてグラスワンダーは直線で失速して5着に沈み、最後は冷静に脚を伸ばして猛追した3番人気のエルコンドルパサーが2着へと浮上。3強の明暗がくっきりと分かれました。
従来の逃げ馬の常識をはるかに超えた、サイレンススズカという唯一無二の快速王だからこそ成立した、究極のラップが生んだ歴史的完勝劇でした。
1998年 毎日王冠(GⅡ)上位着順結果
| 着順 | 馬番 | 馬名 | 性齢 | 騎手 | タイム | 着差 | 通過順位 | 上がり3F | 人気 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1着 | 2 | サイレンススズカ | 牡5 | 武豊 | 1:44.9 | — | 1-1-1 | 35.1 | 1人気 |
| 2着 | 4 | エルコンドルパサー | 牡4 | 蛯名正義 | 1:45.3 | 2馬身1/2 | 2-4-4 | 35.0 | 3人気 |
| 3着 | 7 | サンライズフラッグ | 牡5 | 安田康彦 | 1:46.2 | 5馬身 | 9-9-9 | 35.2 | 4人気 |
※1着サイレンススズカと5着グラスワンダーの着差は「1.5秒差(約9馬身)」、2着エルコンドルパサーとグラスワンダーの差は「1.1秒差(約6馬身1/2)」でした。
⑥レース後の両馬
この伝説的な死闘のあと、3強はそれぞれ全く異なる歴史を歩み、JRAの歴史に偉大な足跡を刻んでいきました。
- サイレンススズカ:次走の天皇賞(秋)で悲劇に見舞われたため、この毎日王冠の完璧な勝利が、彼の「異次元の逃げ」の事実上の最高傑作レースとして今なお語り継がれています。
- エルコンドルパサー:次走のジャパンカップ(GⅠ)を圧勝。翌年はフランスへ遠征し、世界最高峰のレース「凱旋門賞」で2着に入るなど、世界レベルの強さを証明しました。
- グラスワンダー:長期休養明けの5着から見事に復活。同年の年末の有馬記念(GⅠ)を制すると、翌年には宝塚記念と有馬記念を連覇し、グランプリ3連覇の偉業を達成しました。
別々のレースに出れば世界を圧倒するほど強かった4歳の怪物2頭を、絶頂期のスピードで完封したサイレンススズカの強さが、このその後の活躍によってさらに際立つことになりました。
⑦この名勝負が競馬史に残したもの
1998年の毎日王冠は、「逃げ馬=前半は体力を温存して粘り込むもの」という従来の競馬のセオリーを根底から覆した歴史的な一戦です。
前半からハイペースで逃げ、後半もさらに突き放すというサイレンススズカの唯一無二のスタイルは、日本競馬全体のスピード化を大きく加速させる先駆者となりました。
GⅡという格式でありながら、13万人もの大観衆を熱狂させ、世代を超えた最強馬たちが全力をぶつけ合ったこのレースは、今見返しても全く色褪せない日本競馬の至高の財産です。
まとめ
1998年の毎日王冠における、サイレンススズカと無敗の怪物たちによる伝説の死闘をお届けしました。
玉砕を恐れずに勝ちにいったグラスワンダーの執念、最後に意地を見せて猛追したエルコンドルパサーの能力、そしてそれらを影をも踏ませぬスピードで封じ込めたサイレンススズカの絶対的な強さ。それぞれのプライドが極限の状態でぶつかり合ったからこそ、このレースは四半世紀が過ぎた今でも多くのファンに愛されています。
競馬は知れば知るほど奥深くて面白いスポーツです。記事内にあるJRA公式動画で、前半の異次元のラップタイムと最後の直線の力強い押し切りをぜひ何度も見返してみてください。当時の熱気と興奮がそのまま鮮明に伝わってくるはずです。



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