【名勝負列伝】ジェンティルドンナVSオルフェーヴル|2012年ジャパンカップ(GⅠ) 三冠馬同士の壮絶な叩き合い

2010年代

日本競馬の長い歴史のなかで、「三冠馬と三冠牝馬が、ゴール前で激しく馬体をぶつけ合いながら火花を散らした」という、前代未聞の死闘があります。それが2012年のジャパンカップ(GⅠ)。主役は、前年にクラシック三冠を達成した絶対王者オルフェーヴルと、この年に牝馬三冠を成し遂げた最強の3歳女王ジェンティルドンナです。

最後の直線、お互いのプライドと意地が最上限でぶつかり合い、格闘技さながらの壮絶な叩き合いを展開した2頭。写真判定の末にわずか「ハナ差」で決着した、伝説の世紀の一戦の全貌に迫ります。

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この記事でわかること

ジェンティルドンナとオルフェーヴルによる「三冠馬対決」の背景

2012年ジャパンカップ(GⅠ)の出馬表とレース展開

20分に及ぶ審議と、ハナ差の勝負を分けたポイント

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①このレースはなぜ「名勝負」なのか

2012年のジャパンカップが競馬史に残る名勝負と言われる理由は、「JRA史上初となる『三冠馬』と『三冠牝馬』の直接対決が、お互いに一歩も譲らない極限のハナ差決着という最高のドラマとして現実のものになったから」です。

この年は、前年に異次元の強さで三冠を制したオルフェーヴルと、牝馬三冠を圧倒的な強さで制したジェンティルドンナが同世代に揃うという奇跡の年でした。
世界最高峰の凱旋門賞馬までもが参戦する豪華メンバーのなか、他馬を完全に置き去りにして2頭だけで繰り広げた、馬体が激しく激突するゴール前の死闘は、今なお「JRA史上最高のジャパンカップ」として語り継がれています。

②レースまでの背景

この年のジャパンカップの最大の焦点は、日本競馬の常識を覆してきた「3冠馬同士の初対決」、そして世界最高峰の舞台からの「リターンマッチ」という、あまりにも贅沢な2つのストーリーが交錯していた点にありました。

  • オルフェーヴル:前年の3冠馬であり、すでにGⅠを5勝していた現役最強馬。この年の秋にはフランスの最高峰「凱旋門賞」に挑戦し、歴史的快挙まであと一歩の2着に惜敗。世界を驚かせた興奮の冷めやらぬまま、日本の総大将としてこの舞台に立ちました。
  • ジェンティルドンナ:同年に史上4頭目となる「牝馬3冠」を圧倒的な強さで達成した、驚異の3歳女王。年上の最強牡馬たちを相手に、自らの実力を証明するための挑戦状を叩きつけました。

これら2頭の歴史的3冠馬の激突に加え、日本からはルーラーシップなど計9頭のGⅠ優勝馬が参戦。さらには外国馬として、フランスから同年の凱旋門賞馬ソレミアが参戦します。

凱旋門賞でソレミア(フランス)の2着に急襲を許したオルフェーヴルにとっては、まさに本拠地での「リターンマッチ」の構図となり、対戦ムードは最高潮に達していました。
出走馬17頭すべてが重賞優勝馬という、平成の競馬界を見渡してもめったにお目にかかれない「超豪華メンバー」が東京競馬場に集結したのです。

③2012年 ジャパンカップ(GⅠ)出馬表

3冠馬同士の初激突、そして凱旋門賞馬とのリターンマッチに日本中が沸いた、第32回ジャパンカップの出馬表がこちらです。

馬番馬名性齢斤量騎手単勝オッズ人気現役時代の主な実績など
11ビートブラック 🇯🇵牡557kg石橋脩43.28番人気同年の天皇賞(春)の覇者。
長距離重賞戦線で活躍
12スリプトラ 🇬🇧牡657kgN.カラン202.516番人気【外国馬】英G2・ヨークSを制したイギリスの実力馬
23ジャガーメイル 🇯🇵牡857kgW.ビュイック65.913番人気2010年の天皇賞(春)の覇者。
香港ヴァーズでも上位善戦の実力馬
24フェノーメノ 🇯🇵牡355kg蛯名正義8.04番人気同年の青葉賞・セントライト記念勝ち馬。
ダービー2着。後に天皇賞(春)を連覇
35マウントアトス 🇬🇧セ557kgR.ムーア89.412番人気【外国馬】英G3ジェフリーフリアステークスを制覇
36レッドカドー 🇬🇧セ657kgG.モッセ152.513番人気【外国馬】後に香港ヴァーズを制覇。
世界を股にかけて活躍した名馬
47メイショウカンパク 🇯🇵牡557kg内田博幸154.014番人気同年の京都大賞典(GⅡ)の覇者
48エイシンフラッシュ 🇯🇵牡557kgC.ルメール13.95番人気2010年の日本ダービー馬。
前走の天皇賞(秋)で復活の勝利
59オウケンブルースリ 🇯🇵牡757kg浜中俊207.817番人気2008年の菊花賞馬。
2009年のジャパンカップ2着の実績
510ダークシャドウ 🇯🇵牡557kgM.デムーロ18.66番人気2011年の毎日王冠(GⅡ)覇者。
天皇賞(秋)2着などの実績
611ジャッカルベリー🇬🇧 牡657kgC.オドノヒュー159.015番人気【外国馬】同年の豪G1メルボルンカップ3着
612ローズキングダム🇯🇵 牡557kg武豊48.29番人気2009年の朝日杯FS、2010年のジャパンカップを制したGⅠ・2勝馬
713ルーラーシップ 🇯🇵牡557kgC.ウィリアムズ5.42番人気同年のクイーンエリザベス2世C(香港)を制した海外GⅠ馬
714ソレミア 🇫🇷牝455kgO.ペリエ22.77番人気【外国馬】同年の凱旋門賞女王。
オルフェーヴルを破った世界的名牝
815ジェンティルドンナ 🇯🇵牝353kg岩田康誠6.63番人気【3冠馬】同年の牝馬3冠馬。後にジャパンC連覇や有馬記念などGⅠ・7勝
816トーセンジョーダン 🇯🇵牡657kgC.スミヨン55.610番人気2011年の天皇賞(秋)覇者。
当時のJRA芝2000mレコード保持馬
817オルフェーヴル 🇯🇵牡457kg池添謙一2.01番人気【3冠馬】2011年のクラシック3冠馬。
有馬記念などGⅠ・6勝を挙げた怪物

④レース展開

記事を読み進める前に、JRA公式YouTubeチャンネルの「2012年 ジャパンカップ」のレース映像を合わせてご覧いただくのがおすすめです。3冠馬同士の激しい攻防と最後の直線の叩き合いをあらかじめ確認しておくと、この後の解説がより分かりやすくなります。
🎥 2012年 ジャパンカップ レース映像(JRA公式)

スタートのゲートが開くと、3番人気のルーラーシップが痛恨の立ち遅れ。内枠からビートブラックが予定通りハナ(先頭)を奪い、ジェンティルドンナが3番手、オルフェーヴルは中団よりやや後ろを追走します。

前半1000m通過は「60秒2」の平均的な流れとなり、逃げるビートブラックがさらに後続を引き離しにかかりました。第3コーナーではビートブラックのリードが5馬身以上まで広がりますが、このあたりからオルフェーヴルが一気にまくり(位置を押し上げる加速)を敢行。第4コーナーでは早くも3番手で先行集団を射程圏に捉えます。

最後の直線に入ってもビートブラックが粘りを見せますが、オルフェーヴルと、内に控えていたジェンティルドンナが勢いよく伸びてきました。残り200mを切るとビートブラックが失速し、替わってこの2頭が完全に抜け出します。

ここから、歴史に残る2頭の壮絶な叩き合いが始まりました。ジェンティルドンナがビートブラックとオルフェーヴルの間の狭い進路を強引にこじ開けようとした際、オルフェーヴルに激しく馬体をぶつける形になります。2頭は内外に完全に並んだまま、一切譲らずにデッドヒートを展開し、もつれるように同時にゴールインを果たしました。

⑤勝負を分けたポイント

ゴールを駆け抜けた瞬間、ターフビジョンに映し出されたストップモーション映像によって、内のジェンティルドンナが僅かに前に出ていることは肉眼でも確認できました。しかし、場内の電光掲示板に灯ったのは「写真判定」と、そして何より物議を醸すことになる「審議」の文字でした。

最大の問題は、直線でジェンティルドンナがビートブラックとオルフェーヴルの間の狭い進路を強引にこじ開けようとした際、オルフェーヴルに激しく馬体をぶつけた行為が、失格や降着に値するかどうかでした。20分に及ぶ長い審議の末、到達順位通りの確定が発表されたものの、ジェンティルドンナ鞍上の岩田康誠騎手には強引な騎乗に対するペナルティとして、次回開催2日間の騎乗停止処分が下されるという異例の結末を迎えました。

2012年 ジャパンカップ 上位着順結果

着順馬番馬名性齢騎手タイム着差通過順位上がり3F人気
1着15ジェンティルドンナ 🇯🇵牝3岩田康誠2:23.12-2-3-632.83人気
2着17オルフェーヴル 🇯🇵牡4池添謙一2:23.1ハナ12-13-10-332.91人気
3着13ルーラーシップ 🇯🇵牡5C.ウィリアムズ2:23.52馬身1/213-11-13-1532.72人気

⑥レース後の両馬

この伝説的な死闘のあと、2頭はそれぞれ全く異なる歴史を歩み、JRAの歴史に偉大な足跡を刻んでいきました。

  • ジェンティルドンナ:この勝利で3歳牝馬として初のジャパンカップ制覇を達成し、同年の年度代表馬に選出。翌年には史上初となるジャパンカップ連覇を果たしたほか、ドバイシーマクラシックや有馬記念を制し、最終的にGⅠを7勝する歴史的女傑へと上り詰めました。
  • オルフェーヴル:ハナ差の2着に敗れたものの、翌2013年には産経大阪杯を快勝し、再度フランスへ遠征。凱旋門賞で2年連続の2着に入るなど世界にその実力を示しました。引退レースとなった同年の有馬記念では後続を8馬身突き放す歴史的大圧勝を飾り、最強のままターフを去りました。

別々のレースに出れば世界を圧倒するほど強かった4歳の怪物を、3歳牝馬特有の斤量と精神力でねじ伏せたジェンティルドンナの強さが、その後の活躍によってさらに際立つことになりました。

⑦この名勝負が競馬史に残したもの

2012年のジャパンカップは、「三冠馬vs三冠牝馬」という日本競馬史上初となる究極の直接対決が、文字通り互いの意地とプライドをかけた限界の叩き合いとして現実のものとなった歴史的な一戦です。

ジャパンカップ史上初となる3歳牝馬での優勝を飾ったジェンティルドンナの走りは、海外メディアからも「3歳馬の中で世界トップ」と極めて高い評価を受けました。 また、大外枠や直線の不利、4キロの斤量差がありながらハナ差の死闘を演じたオルフェーヴルの底力も凄まじく、結果的にこれが彼の国内最後の敗戦となったことも、2頭の怪物の価値をさらに高める分岐点となりました。

11万7000人もの大観衆が競馬場を埋め尽くして熱狂し、後に殿堂入りを果たす最高峰の2頭が全力をぶつけ合ったこのレースは、今見返しても全く色褪せない日本競馬の至高の財産です。

凱旋門賞馬ソレミア(フランス)との明暗
ロンシャンの重馬場でオルフェーヴルを破ったソレミアでしたが、東京の超高速馬場には対応できず13着に大敗。
そのソレミアを問題にせず日本の地で雪辱を果たしたオルフェーヴルと、それをさらに上回ったジェンティルドンナという、日本馬の驚異的なスピードレベルを証明する結末となりました。

まとめ

2012年のジャパンカップにおける、ジェンティルドンナとオルフェーヴルによる伝説の死闘をお届けしました。

3冠牝馬が現役最強へと果敢に挑み、最後の直線でも一切怯まなかったジェンティルドンナの強靭な精神力、大外枠や直線の不利、4キロの斤量差がありながらハナ差まで追い詰めたオルフェーヴルの圧倒的な底力。お互いのプライドが極限の状態でぶつかり合ったからこそ、このレースは今でも多くのファンに愛されています。

競馬は知れば知るほど奥深くて面白いスポーツです。記事内にあるJRA公式動画で、最後の直線の激しい馬体のぶつかり合いと、歴史的なハナ差の叩き合いをぜひ何度も見返してみてください。当時の熱気と興奮がそのまま鮮明に伝わってくるはずです。

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