【名勝負列伝】4頭横一線、ゴール前の大激戦|2020年高松宮記念(GⅠ)15番人気クリノガウディー「幻のGⅠ制覇」

2020年代

日本競馬の長い歴史のなかで、「ゴール線上で4頭がハナを並べ、1位入線馬が降着となる」という、前代未聞の奇跡と波乱の一戦があります。それが2020年の高松宮記念(GⅠ)。主役は、15番人気という低評価を覆して泥んこの重馬場を激走したクリノガウディー、そして快速牝馬モズスーパーフレアです。
JRA初の無観客GⅠ開催という異例の静寂のなか、栄光の意地と、執念のプライドが真っ向からぶつかり合った、伝説の電撃戦の全貌に迫ります。

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この記事でわかること

✅ クリノガウディー、モズスーパーフレアらによる「ゴール前4頭横一線」の背景

✅ 2020年高松宮記念(GⅠ)の出馬表とタフな重馬場のレース展開

✅ 17分間の長い審議と、10年ぶりの「2位入線繰り上がりV」を分けたポイント

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①このレースはなぜ「名勝負」なのか

2020年の高松宮記念が競馬史に残る名勝負と言われる理由は、「JRA史上初の無観客GⅠという異例の静寂のなか、4頭が完全に横一線に並ぶ極限の死闘と、GⅠ史を揺るがす1位入線降着劇という前代未聞のドラマが現実のものになったから」です。

この年は、初の1200m戦に挑むマイル女王グランアレグリアや快速牝馬モズスーパーフレアといったトップスプリンターたちが集結し、真の王座をかける激戦の年でした。

雨上がりのタフな重馬場のなか、最後の直線で他馬を寄せ付けずに上位4頭だけで繰り広げた、馬体が激しく接触するゴール前の死闘は、今なお「JRAの歴史において、最も勝者と敗者の明暗が残酷に分かれた高松宮記念」として語り継がれています。

②レースまでの背景

この年の高松宮記念の最大の焦点は、「次世代のスプリント王をかけた新旧勢力の真っ向勝負」、そして世界的な猛威を振るい始めた「COVID-19(新型コロナウイルス)による未曾有の事態」という、2つの背景が交錯していた点にありました。

  • タワーオブロンドン:前年のスプリンターズSを制した現役最速王者。秋春のスプリントGⅠ連覇と絶対王政の確立を狙い、大本命としてこの舞台に君臨しました。
  • グランアレグリア:前年の桜花賞馬であり、異次元のスピードを誇るマイル女王。マイル路線から満を持して初の1200m戦に参戦し、挑戦状を叩きつけました。

これら2頭の激突に加え、芝・ダート両GⅠ馬のモズアスコットノームコアなど、計6頭のGⅠ優勝馬が参戦。さらに、スプリント重賞4勝のダノンスマッシュや快速モズスーパーフレアなど、「豪華メンバー」が集結したのです。

そしてレース直前、感染症拡大の波により、JRAは「史上初の無観客GⅠ開催」という苦渋の決断を下します。ファンの歓声が消え失せ、異様な静寂に包まれた中京競馬場。出走馬18頭が電撃の1200mに執念を燃やす、かつてないほど緊迫した空気のなかで真春の頂上決戦のゲートが開きました。

③2020年 高松宮記念(GⅠ)出馬表

新旧スプリント王の激突、そして史上初の無観客GⅠ開催に緊迫した空気が漂った、第50回高松宮記念の出馬表がこちらです。

馬番馬名性齢斤量騎手単勝オッズ人気現役時代の主な実績など
11ステルヴィオ牡557kg丸山元気24.87番人気前々年のマイルCS覇者。距離短縮で完全復活を狙う。
12アウィルアウェイ牝455kg松山弘平38.111番人気同年のシルクロードS覇者。
強烈な末脚を秘める。
23ダイアトニック牡557kg北村友一9.24番人気前年のスワンS覇者。
1400m戦を中心に安定感抜群。
24ティーハーフ牡1057kg国分優作304.217番人気10歳を迎えながらも電撃戦に挑み続ける大ベテラン。
35ラブカンプー牝555kg酒井学329.218番人気2年前のスプリンターズSで2着の実績を持つ快速牝馬。
36ダノンスマッシュ牡557kg川田将雅4.12番人気スプリント重賞4勝。
前哨戦のオーシャンSを快勝。
47グルーヴィット牡457kg岩田康誠40.113番人気前年の中京記念を制した、左回り得意のマイル実績馬。
48グランアレグリア牝455kg池添謙一4.13番人気前年の桜花賞馬。
初の1200m参戦で二階級制覇を狙う。
59タワーオブロンドン牡557kg福永祐一3.81番人気前年のスプリンターズS覇者。
現役スプリント絶対王者。
510アイラブテーラー牝455kg武豊33.210番人気前走淀短距離Sを勝利。
底を見せていない上がり馬。
611クリノガウディー牡457kg和田竜二64.615番人気前年のマイルCS7着。
今回は単勝64.6倍の超伏兵。
612セイウンコウセイ牡757kg幸英明22.86番人気3年前の当レース覇者。
昨年も2着と中京大得意。
713ダイメイプリンセス牝755kg秋山真一郎245.616番人気前年の北九州記念など、夏のスプリント重賞2勝。
714モズアスコット牡657kgM.デムーロ9.85番人気安田記念、フェブラリーSを制した芝ダート両GⅠ馬。
715ナックビーナス牝755kg田辺裕信57.614番人気高松宮記念4年連続出走。
キーンランドCなどの覇者。
816モズスーパーフレア牝555kg松若風馬32.39番人気前年のオーシャンステークスを勝利。
JRA屈指の超快速牝馬。
817シヴァージ牡557kg藤岡佑介40.012番人気ダートで出世し芝へ転向。
前走オープン、北九州短距離ステークスを勝利。
818ノームコア牝555kg横山典弘26.78番人気前年のヴィクトリアマイル覇者。
高速マイル女王。

④レース展開

記事を読み進める前に、JRA公式YouTubeチャンネルの「2020年 高松宮記念」のレース映像を合わせてご覧いただくのがおすすめです。4頭が完全に横一線に並ぶゴール前の激しい叩き合いと、審議の対象となった直線の攻防をあらかじめ確認しておくと、この後の解説がより分かりやすくなります。
🎥 2020年 高松宮記念 レース映像(JRA公式)

スタートのゲートが開くと、18頭が概ね正常なスタートを切りました。その中から、抜群のダッシュ力を見せた超快速牝馬モズスーパーフレアがハナ(先頭)を奪い、ダイアトニックやクリノガウディー、セイウンコウセイらが先頭集団を形成します。

前半600m通過は「34秒2」のハイペースとなり、逃げるモズスーパーフレアがさらに後続を引き離しにかかりました。中団ではダノンスマッシュ、タワーオブロンドン、グランアレグリアの上位人気勢がじっと脚を溜め、4コーナーを迎えます。

最後の直線に入ってもモズスーパーフレアが粘りを見せますが、2番手集団からクリノガウディーとダイアトニックが勢いよく伸びてきました。残り100mを切ったところで、外から抜群の手応えでクリノガウディーが完全に抜け出しを量ります。

ここから、歴史に残る4頭の壮絶な叩き合いが始まりました。先頭に立とうとしたクリノガウディーが内側に激しく斜行し、モズスーパーフレアとダイアトニックの進路を妨害。不利を受けた2頭が驚異の根性で差し返し、大外からグランアレグリアも猛追して、4頭が完全に並んだまま同時になだれ込むようにゴールインを果たしました。

⑤勝負を分けたポイント

4頭が完全に横一線でゴールを駆け抜けた瞬間、場内の目視ではどの馬が勝ったのか判断できないほどの大混戦でした。しかし、スタンドが異様な静寂(※当日は無観客開催)に包まれるなか、中京競馬場の電光掲示板に灯ったのは「写真判定」の文字と、そして何より物議を醸すことになる「審議」の青ランプでした。

最大の焦点は、直線で先頭に立とうとしたクリノガウディーが内側へ激しく斜行し、モズスーパーフレアとダイアトニックの進路を妨害した行為が、降着に値するかどうかでした。17分に及ぶ長い審議の末、走行妨害がなければ被害馬が先着できていたと判断され、1位入線のクリノガウディーが4着へ降着。2位入線のモズスーパーフレアが繰り上がり優勝を果たすという、あまりにも残酷な明暗により、15番人気の激走は一瞬にして「幻のGⅠ制覇」へと変わる異例の結末を迎えました。

2020年 高松宮記念 上位着順結果

着順馬番馬名性齢騎手タイム着差通過順位上がり3F人気
1着16モズスーパーフレア牝5松若風馬1:08.71-134.59番人気
2着8グランアレグリア牝4池添謙一1:08.7ハナ13-1233.13番人気
3着3ダイアトニック牡5北村友一1:08.7アタマ4-433.74番人気
4着(1位入線降着11クリノガウディー牡4和田竜二1:08.74位降着3-333.815番人気

※1位入線した15番人気のクリノガウディーは、最後の直線コースでの走行妨害(斜行)により、審議の結果4着に降着となった確定データを反映しています。

⑥レース後の両馬

この伝説的な死闘のあと、激戦を繰り広げた4頭はそれぞれ全く異なる歴史を歩み、JRAの歴史に偉大な足跡と記憶を刻んでいきました。

  • モズスーパーフレア:この勝利でJRA史上初の無観客GⅠ王者となり、翌2021年の高松宮記念でも5着に粘るなど快速牝馬としてマイル・スプリントの一線級で走り続け、同年12月のカペラSを最後にファンに惜しまれつつ現役を引退しました。
  • グランアレグリア:ハナ差の2着に敗れたものの、同年秋の短距離GⅠ(安田記念・スプリンターズS・マイルCS)を3連勝して最優秀短距離馬に選出。翌2021年のヴィクトリアマイルやマイルCSも制し、最終的にGⅠを6勝する歴史的名牝へと上り詰めました。
  • ダイアトニック:致命的な不利を受け3着に泣いたものの、その後はスワンSや阪神Cなどの重賞を計7勝する無類の短距離重賞ハンターとして息長く活躍。7歳となった2022年の阪神Cを快勝して有終の美を飾り、オーストラリアで種牡馬入りを果たしました。
  • クリノガウディー:非情の降着で4着となり栄冠を逃したあとはスランプに苦しんだものの、翌2021年の鞍馬Sと安土城Sをレコードタイムで連勝。GⅠタイトルこそ「幻」となったものの、その爆発的なスピード能力の高さは多くの競馬ファンの記憶に深く刻まれました。

別々のレースに出れば世界を圧倒するほど強かった最強牝馬や短距離の実績馬たちを、泥んこのタフな馬場を味方につけた圧倒的なダッシュ力で最後まで苦しめ、繰り上がりで栄冠を掴み取ったモズスーパーフレアの存在感が、その後の各馬の素晴らしい活躍によってさらに際立つことになりました。

⑦この名勝負が競馬史に残したもの

2020年の高松宮記念は、「ゴール前4頭横一線の死闘」という電撃戦の極限が示されると同時に、新降着ルールの厳格な適用とJRA史上初となる異例の開催環境が交錯した、まさに競馬史の大きな転換点となった歴史的な一戦です。

JRAのGⅠレースにおいて、1着入線馬が馬券圏外(4着)へ降着となったのは、2006年のエリザベス女王杯(カワカミプリンセス)以来実に14年ぶりの出来事でした。特に、2013年に「走行妨害がなければ被害馬が先着できていたか」という世界基準の新降着ルールが導入されて以降、GⅠで降着処分が下されたのはこれが初めての事例であり、審議室のジャッジが現代競馬のフェーズを明確に変えた分岐点となりました。

入場者数0人という異様な静寂に包まれた中京競馬場で、大歓声の代わりに響いたのは馬体をぶつけ合う音と鞭の音だけでした。後に歴史的名牝となるグランアレグリアの猛追をハナ差で退け、泥んこの重馬場で繰り広げられた最高峰の電撃戦は、今見返しても全く色褪せない日本競馬の至高の財産です。

まとめ

2020年の高松宮記念における、モズスーパーフレアやクリノガウディーたちによる伝説の死闘をお届けしました。

15番人気という低評価を覆して泥んこの重馬場を力強く駆け抜けたクリノガウディーの執念の激走、致命的な不利を受けながらも驚異の根性で差し返したモズスーパーフレアとダイアトニックの底力。お互いのプライドが極限の状態でぶつかり合い、17分間という異例の審議を経て勝者と敗者の明暗が残酷なまでに分かれたからこそ、このレースは今でも多くのファンに愛されています。

競馬は知れば知るほど奥深くて面白いスポーツです。記事内にあるJRA公式動画で、最後の直線の激しい馬体のぶつかり合いと、歴史的なハナ差の叩き合いをぜひ何度も見返してみてください。当時の熱気と興奮(※無観客開催の緊迫感)がそのまま鮮明に伝わってくるはずです。

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