競走馬にはどんな病気やケガがある?代表的な症例を紹介

競走馬のからだ・健康

競走馬はトップアスリートであり、日々ハードなトレーニングやレースに挑んでいます。その一方で、人間のスポーツ選手と同じように、さまざまな病気やケガに悩まされることも少なくありません。

屈腱炎や骨折のように競走生活へ大きな影響を与えるものから、疝痛(せんつう)や肺出血(EIPH)など命に関わる病気まで、その種類はさまざまです。

この記事では、競走馬に多い代表的な病気やケガについて、症状や原因、特徴などを紹介します。

⏱ 読了時間:約20分

この記事でわかること

✅ 競走馬に多い代表的な病気やケガ

✅ 病気やケガの原因や主な症状

✅ 代表的な治療法や競走生活への影響

✅ 病気やケガを防ぐための取り組み

それでは、競走馬に多い代表的な病気やケガについて、それぞれの原因や症状、治療法を詳しく見ていきましょう。
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競走馬に多い病気やケガとは?

競走馬の病気やケガには、脚や関節に起こる運動器のトラブルと、内臓や呼吸器などに起こる病気などがあります。

特に競走馬は全力で走る機会が多いため、脚への負担が大きく、屈腱炎や骨折といった故障は珍しくありません。また、疝痛(せんつう)や肺出血(EIPH)など、一見すると分かりにくい病気を発症することもあります。

骨・脚の病気やケガ

競走馬は全体重を4本の脚で支えながら、時速60kmを超えるスピードで走ります。そのため、特に骨や脚には大きな負担がかかり、競走生活に影響を与える病気やケガが少なくありません。ここでは代表的なものを紹介します。

①屈腱炎(くっけんえん)

屈腱炎(くっけんえん)とは、競走馬の脚にある「屈腱(くっけん)」という腱が炎症を起こす病気です。全力疾走による大きな負荷が繰り返しかかることで発症しやすく、「競走馬の職業病」とも呼ばれ競馬界では長年「不治の病」と言われるほど復帰が難しい故障として知られてきました。

一度発症すると治療には長い時間が必要となり、再発率も高いため、競走生活に大きな影響を与える病気の一つです。重症の場合は引退を余儀なくされることもあります。

屈腱炎は一度発症すると完治までに長い時間がかかるため、長期間の休養が基本となります。症状に応じて患部を冷やす処置(アイシング)や消炎治療を行い、その後は獣医師の管理のもとで少しずつ運動量を増やしながらリハビリを進めます。

近年ではPRP療法(多血小板血漿療法)や幹細胞治療などの再生医療も行われていますが、再発率は依然として高く、慎重な管理が欠かせません。

なお、屈腱炎には「浅屈腱炎」と「深屈腱炎」があり、競走馬では約80〜90%が浅屈腱炎とされています。深屈腱炎は発症頻度こそ少ないものの、重症化しやすい傾向があります。

代表的な競走馬では、クロフネやキングカメハメハ、キズナなどが屈腱炎を経験しています。

○ポイント
・原因:激しいトレーニングやレースによる脚への負担
症状:脚の腫れ、熱感、跛行(びっこを引くような歩き方)
・治療:安静、リハビリ、再発防止のための慎重な調整
・競走生活への影響:長期休養や引退につながることもある

②骨折

骨折とは、競走馬の骨に強い衝撃や繰り返しの負荷が加わることで、骨にひびが入ったり折れたりするケガです。競走馬は時速60kmを超えるスピードで走るため、脚には大きな負担がかかり、レース中や調教中に骨折することがあります。

骨折には軽度のものから重度のものまであり、軽度であれば手術や長期間の休養を経て競走復帰できるケースもあります。一方で、脚を支えられないほどの重度の骨折では、回復が極めて難しく、予後不良と診断されることも少なくありません。

近年では医療技術の進歩により救命できるケースも増えていますが、競走馬は体重が重く、4本の脚で体を支えているため、骨折後の治療や管理は非常に難しいとされています。

代表的な競走馬では、サイレンススズカや、レース中に重大な脱臼と骨折を発症したライスシャワーが予後不良となりました。

💡予後不良とは?

治療を行っても回復が極めて難しく、命を救うことが困難と判断された状態を指します。競走馬は体重が重く、長期間片脚だけで体を支えることが難しいため、重度の骨折では予後不良と診断される場合があります。

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○ポイント
・原因:レースや調教による強い衝撃・脚への過度な負担
・症状:脚を着けない、激しい跛行(びっこ)、腫れや変形
・治療:ギプス固定や手術、長期間の休養・リハビリ
・競走生活への影響:軽度なら復帰可能な場合もあるが、重度では予後不良となることもある

③球節炎(きゅうせつえん)

球節炎(きゅうせつえん)とは、競走馬の脚にある球節(きゅうせつ)と呼ばれる関節に炎症が起こる病気です。球節は走行時の衝撃を吸収する重要な役割を担っており、レースや調教で繰り返し大きな負荷がかかることで発症しやすくなります。

症状が進行すると、球節の腫れや熱感、跛行(びっこ)が見られるようになり、本来のパフォーマンスを発揮できなくなることがあります。軽度であれば休養や治療によって回復が期待できますが、慢性化すると競走生活に大きな影響を及ぼす場合があります。

治療では安静や消炎治療を基本とし、症状に応じて関節内への治療やリハビリを行います。再発を防ぐためには、無理のない調教や十分な休養が重要です。

○ポイント
・原因
 ・外的要因:打撲、捻挫、脱臼、骨折、傷口からの細菌感染
 ・負担要因:レースや調教による繰り返しの負荷、腱や靱帯・軟部組織への強いストレス
・症状:球節の腫れ、熱感、跛行(びっこ)
・治療:安静、消炎治療、リハビリ
・競走生活への影響:慢性化すると能力低下や長期休養につながることもある

④蹄葉炎(ていようえん)

蹄葉炎(ていようえん)とは、競走馬の蹄(ひづめ)の内部にある「蹄葉(ていよう)」という組織に炎症が起こる病気です。蹄葉は蹄と骨をつなぐ重要な役割を担っており、炎症が進行すると強い痛みを伴い、正常に歩くことが難しくなります。

発症の原因はさまざまで、過度な負荷や感染症、代謝異常などがきっかけとなることがあります。重症化すると蹄骨が変形・沈下し、立つことや歩くことが困難になります。命に関わるケースもあるため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。

治療では安静や蹄の保護、消炎治療を行い、原因となった病気の治療も並行して進めます。

○ポイント
・原因:過度な負荷、感染症、代謝異常など
・症状:蹄の強い痛み、熱感、歩行困難
・治療:安静、蹄の保護、消炎治療、原因疾患の治療
・競走生活への影響:重症化すると競走復帰が難しくなることもある

呼吸器の病気

競走馬は全力疾走を繰り返すため、呼吸器にも大きな負担がかかります。特に高速で走る競走馬では、肺の毛細血管に強い圧力がかかることで肺出血(EIPH)を発症することがあり、競走能力に影響を及ぼす場合があります。

①肺出血(EIPH)

肺出血(EIPH:運動誘発性肺出血)とは、激しい運動によって肺の毛細血管が破れ、肺の中で出血が起こる病気です。競走馬では比較的よく見られる疾患で、高速で走ることによる大きな負荷が主な原因とされています。

軽度の場合は外見から分かりにくいこともありますが、重症になると鼻から出血する「鼻出血」として確認されることがあります。また、肺出血を繰り返すと呼吸機能が低下し、本来の競走能力を発揮できなくなることもあります。

治療では安静を基本とし、症状に応じて獣医師による治療や経過観察を行います。回復後は状態を確認しながら、徐々に調教やレースへ復帰します。

💡EIPHとは?

EIPHはExercise-Induced Pulmonary Hemorrhageの略で、日本語では「運動誘発性肺出血」と呼ばれます。競走馬では珍しい病気ではなく、内視鏡検査を行うと出血の痕跡が確認される馬も少なくありません。

○ポイント
・原因:激しい運動による肺の毛細血管への大きな負荷
・症状:肺内出血、鼻出血、呼吸機能の低下、競走能力の低下
・治療:安静、獣医師による治療・管理、十分な休養
・競走生活への影響:軽症なら復帰できることもあるが、再発を繰り返すと能力に影響する場合がある

②喉鳴り(喉頭片麻痺)

喉鳴り(喉頭片麻痺)とは、喉頭の筋肉を動かす神経が麻痺し、空気の通り道が狭くなる病気です。息を吸うとき(吸気時)に「ヒューヒュー」と音が鳴ることから「喉鳴り」と呼ばれています。

症状が進行すると十分な酸素を取り込めなくなり、運動能力が低下したり、レース中に失速したりすることがあります。

治療では症状に応じて手術が行われることがあり、多くの競走馬が手術後に競走へ復帰しています。

○ポイント
・原因:喉頭を動かす神経の麻痺
・症状:呼吸時の異音、呼吸困難、競走能力の低下
・治療:手術、安静、調教の立ち上げ
・競走生活への影響:手術後に復帰できるケースも多い

③馬インフルエンザ

馬インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる競走馬の代表的な呼吸器感染症です。感染力が非常に強く、飛沫感染や馬同士の接触などによって短期間で広がることがあります。

発症すると発熱や咳、鼻水、食欲不振、元気消失などの症状が現れ、競走能力が大きく低下します。そのため、競走馬は定期的なワクチン接種が義務付けられており、感染予防が徹底されています。

治療では安静を基本とし、症状に応じて解熱剤などによる対症療法が行われます。多くの馬は回復しますが、感染拡大を防ぐため隔離や一定期間の出走停止などの措置が取られる場合もあります。

○ポイント
・原因:馬インフルエンザウイルスへの感染
・症状:発熱、咳、鼻水、食欲不振、元気消失
・治療:安静、対症療法、十分な休養
・競走生活への影響:回復までは調教やレースへの出走ができず、集団感染した場合は開催に影響することもある

💡 豆知識

2007年には日本で馬インフルエンザが36年ぶりに流行し、感染拡大防止のためJRAの競馬開催が1節(2日間)中止となりました。馬インフルエンザが競馬開催に大きな影響を与えた出来事として知られています。

消化器の病気

競走馬は消化器が非常にデリケートな動物であり、食事やストレス、運動などさまざまな要因によって体調を崩すことがあります。特に「疝痛(せんつう)」は競走馬によく見られる病気で、症状によっては命に関わるケースもあるため、早期発見と迅速な治療が重要です。

①疝痛(せんつう)

疝痛(せんつう)とは、腹部に痛みが生じる症状の総称で、人間でいう「腹痛」にあたります。競走馬では最も多く見られる病気の一つであり、腸閉塞やガスの蓄積、腸のねじれなど、さまざまな原因によって引き起こされます。

軽症であれば治療によって回復することもありますが、重症化すると腸が壊死するなど命に関わるケースもあるため、迅速な診断と治療が必要です。

治療では、症状に応じて鎮痛剤や点滴による内科的治療を行い、改善が見られない場合には開腹手術が行われることもあります。

○ポイント
・原因:腸閉塞、ガスの蓄積、腸のねじれ、急な飼料変更、ストレスなど
・症状:腹痛、食欲不振、地面を転げ回る、お腹を気にする、発汗
・治療:鎮痛剤、点滴、胃カテーテル、重症例では手術
・競走生活への影響:軽症なら復帰可能だが、重症化すると命に関わることもある

💡 なぜ馬の疝痛は命に関わるのか?

馬は解剖学的に「構造上、吐くことができない」(胃の入り口の筋肉が非常に強固なため)という特徴を持っています。そのため、胃や腸でガスや食渣(食べ物の残り)が詰まっても逆流させて排出できず、最悪の場合は胃破裂や腸管の破裂、壊死を起こしてしまいます。

②大腸炎

大腸炎(だいちょうえん)とは、競走馬の大腸に炎症が起こる病気です。細菌やウイルスへの感染、抗生物質の影響、ストレスなど、さまざまな原因によって発症することがあります。

主な症状は下痢や発熱、食欲不振、元気消失などで、重症化すると脱水症状やショック状態に陥ることもあります。競走馬は大量の水分を失うと体調が急激に悪化するため、早期の治療が重要です。

治療では、点滴による水分補給や電解質の補正を行い、原因に応じた治療を実施します。症状が改善するまでは十分な休養と経過観察が必要です。

○ポイント
・原因:細菌・ウイルス感染、抗生物質の影響、ストレスなど
・症状:下痢、発熱、食欲不振、元気消失、脱水
・治療:点滴による水分補給、電解質補正、原因に応じた治療
・競走生活への影響:軽症なら回復できるが、重症化すると長期休養や命に関わることもある

心臓・その他の病気

競走馬は脚や呼吸器、消化器だけでなく、心臓や全身に関わる病気を発症することもあります。発症頻度は比較的少ないものの、競走能力や健康状態に大きな影響を与えるため、早期発見と適切な治療が重要です。

①心房細動(しんぼうさいどう)

心房細動(しんぼうさいどう)とは、心臓の心房が正常なリズムで動かなくなる不整脈の一種です。競走馬では激しい運動中やレース後に発症することがあり、心臓が十分に血液を送り出せなくなるため、本来の競走能力を発揮できなくなることがあります。

主な症状は運動能力の低下や失速、疲れやすくなることなどで、軽症の場合は外見から分かりにくいケースもあります。多くの馬は適切な治療によって回復が期待でき、競走へ復帰する例も少なくありません。

治療では安静を基本とし、症状に応じて抗不整脈薬や電気的除細動などが行われます。

○ポイント
・原因:激しい運動、心疾患、電解質バランスの乱れなど
・症状:運動能力の低下、失速、疲れやすい、不整脈
・治療:安静、抗不整脈薬、電気的除細動
・競走生活への影響:回復すれば競走復帰できるケースも多いが、症状によっては長期休養が必要となることもある

💡 豆知識

競走馬の心房細動は大型で運動能力の高い馬ほど発症しやすいとされており、早期に発見・治療を行うことで、再びレースで活躍する競走馬もいます。

②熱中症

熱中症とは、高温多湿の環境で体温調節がうまくできなくなり、体内に熱がこもることで発症する病気です。競走馬は全力で走るため体温が大きく上昇しやすく、特に夏場のレースや調教では注意が必要です。

主な症状は体温の上昇や呼吸の乱れ、脱水、発汗異常、元気消失などで、重症化すると意識障害や臓器障害を引き起こし、命に関わることもあります。

治療では、速やかに体を冷やし、水分や電解質を補給することが重要です。近年はJRAでも暑熱対策として、発走時刻の見直しや散水、ミスト設備の設置など、さまざまな取り組みが行われています。

○ポイント
・原因:高温多湿の環境、激しい運動、脱水
・症状:体温上昇、呼吸の乱れ、脱水、発汗異常、元気消失
・治療:全身の冷却、水分・電解質の補給、獣医師による治療
・競走生活への影響:軽症なら回復できるが、重症化すると長期休養や命に関わることもある

③馬ヘルペスウイルス感染症

馬ヘルペスウイルス感染症とは、馬ヘルペスウイルス(EHV)への感染によって引き起こされる病気です。主に飛沫感染や馬同士の接触によって広がり、競走馬が集まるトレーニングセンターや競馬場では感染対策が重要視されています。

主な症状は発熱や鼻水、咳などの呼吸器症状ですが、ウイルスの種類によっては流産や神経症状を引き起こすこともあります。感染力が強いため、発症した馬は隔離され、感染拡大を防ぐための対策が行われます。

治療では安静を基本とし、症状に応じた対症療法を行います。また、ワクチン接種や衛生管理を徹底することが、感染予防につながります。

○ポイント
・原因:馬ヘルペスウイルス(EHV)への感染
・症状:発熱、鼻水、咳、神経症状、流産(繁殖牝馬)
・治療:安静、対症療法、十分な休養
・競走生活への影響:感染拡大防止のため隔離や出走・調教の制限が行われることがある

病気やケガを防ぐための取り組み

主な取り組み

  • 定期的な健康診断
    • 血液検査や心音・呼吸の確認などを行い、体調の変化を早期に発見します。
  • 脚元のチェック
    • レースや調教後は脚の腫れや熱感、痛みの有無を毎日確認し、異常の早期発見に努めます。
  • 適切なトレーニング管理
    • 馬の体調や成長に合わせて調教内容を調整し、過度な負担を避けます。
  • 蹄(ひづめ)の管理
    • 定期的な削蹄(さくてい)や装蹄(そうてい)を行い、脚元への負担を軽減します。
  • 栄養管理・衛生管理
    • バランスの取れた飼料や十分な水分補給、清潔な馬房環境を維持し、病気の予防に努めます。
  • ワクチン接種・感染症対策
    • 馬インフルエンザなどの感染症を防ぐため、定期的なワクチン接種や衛生管理が行われています。
  • 暑熱対策
    • 夏場は散水やミスト設備、冷却処置などを活用し、熱中症の予防に取り組んでいます。

まとめ

競走馬はトップアスリートである一方、日々の厳しいトレーニングやレースによって、病気やケガのリスクと常に隣り合わせです。屈腱炎や骨折といった脚元の故障だけでなく、肺出血や疝痛、熱中症など、命に関わる病気を発症することもあります。

しかし、その裏では調教師や厩務員、獣医師、装蹄師など多くの関係者が連携し、日々の健康管理やコンディション維持に努めています。

競走馬の病気やケガについて知ることで、レースで活躍する姿だけでなく、その裏で支えられている努力にも目を向けられるようになるでしょう。ぜひ、これから競馬を観戦する際には、競走馬たちの体調や健康管理にも注目してみてください。

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